2008年07月14日

「夕立」

夕立。

西の空は晴れていて、
いつかここも夕焼けこやけ。

傘を持って駅までお迎え。
ボロボロなのに捨てられないお気に入りの紺色の傘をさして、
花柄の白い傘を片手に持って、
駅までお迎え。


前には、子ども用の黄色いちっちゃな傘を持つお母さん。
同じ駅を目指して、歩いていく。

少しずつ光が溢れてきて、
雨が上がり始めて、

駅では、
「迎えに来なくて大丈夫だったね」
「でも、ありがとう」
「嬉しい」

こんな会話をみんなしていた。


雨上がりのキラキラ輝くアスファルト、
いつもと同じだけど、
いつもより温かい道を、
手をつないで帰った。

片手には、
閉じた傘、2つ。


080712_1807~0001.jpg

080712_1859~0002.jpg

※たまにはこんなのもいいかぁ。あぁ・・・恥ずかしい(笑)
posted by Nanja-Kanja at 14:47| Comment(1) | TrackBack(0) | 歌詞・詩・小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年05月22日

短編「迷犬ポチの部屋」

皆さん、「迷犬ポチの部屋」にようこそ。
まずは、自己紹介から。
私の名前はポチ。人間にそう呼ばている。
犬は犬の限界を超えられぬからただの犬であるが、しかし、ただの犬ではない。
自分でいうのも何だが、高い知能を持つ天才犬だ。
どう頑張っても「ワン!!」や「ク〜ン」という言葉しか出てこないのが残念だ。
しかし、手段はある。
毎朝新聞を取るだの、足し算の答えのカードを口にくわえるだの、そんなことで賢さを示したりはしない。
今は、パソコンという便利なものがある。
器用ではないからキーボードを打つのに苦労するが、ニクキュウよりも爪の先端を使って打つ技をあみだしてから打ち間違えが減り、速くなった。
ただ、ここにも犬の限界があって、長時間イスの上に座って手を動かし続ける作業は、とても疲れる。
だから、少し打っては休み、少し打っては休み…この文章も、ここまで書くのに1時間近くかかった。
苦労して書いているんだ。このブログの記事、みんな読んでくれよな。

私には恋人がいる。名前は、ここではIさんにしておく。
私は雑種で、人間の影響を受けている犬仲間からも存在価値を低く見られる。
私の性格が少々ねじまがっているのも、先天的なものに加えて後天的なその要素が大きく関係しているのかも知れぬ。他にも、要因はあるが・・・。
恋人のIさんは、血統書付きの数10万の価値を与えられた犬だ。
私は、「俺なんかでいいのか?」と、差別的な目で人間や犬仲間に見られた時に思い、コンプレックスから一度、
「おい、お前も俺のことを価値が低い犬だと思っているだろ!!もう、別れる!!」
と言ってしまったことがある。
Iさんはその時、何も言わずに私の体をペロペロ舐めてくれた。
私は我に返り、恥ずかしくなり、私も無言のままIさんの綺麗に手入れされた美しい毛並みの体をペロペロ舐めた。

ところで、皆さんは全ての犬が人間に飼われること、従うことが好きだと思うかい?
鎖につながれ、飯を与えられ、勝手に出歩くことはできず、散歩の時もヒモでつながられているから自由はない。こっちで小便をするなここでフンをするなと、首を引っ張られ体を操られる。
少なくとも、私はそれが嫌なんだ。
この間も自分の存在価値がわからなくなり、ヤケを起こしてネギをバクバク食べた。
そしてIさんに、
「飼われるのが犬か?人間の都合に合わせて動く…感情労働だ!!陰ではどいつも飼い主の悪口や不満をグチグチ言っているのに、エサをちらつかされると『ク〜ン』だ。
おまけにお手、チンチン…そんなことまで平気でしやがる。
一番の問題は、俺もそんな犬であることだ。肉体とは、なんて不自由なものなんだ!!その要素は生まれ持った能力の限界と共に、個人ではない外部的な要因も関係しての不自由さだ。
Iよ、こんな俺を笑え!!」
と、ネギを食べてフラフラになりながら言った。
Iさんには、
「あなたの気持ちも分かるけど、あなたを含めた犬が飼い主に愛情を持っているのは確かでしょ?
物事は捉え方次第…ちゃんと立派な役割を担っているじゃない。
それに、首輪をつけないで外をフラフラ歩いてごらんなさい。また保健所に連れて行かれてしまうよ。沢山の犬を殺している場所に…。あなたの飼い主は、そこから引き取ってくれたんじゃないの!
批判や文句もいいけど、少しは現実的な幸せを、目の前にある幸せを見つめたらどうなの?」
と、言われた。
私は、
「お前は、俺の一番大事な部分を理解していないんだ。
路地裏に住む悪い奴らの仲間にでもなってやる!!」
と、言った。が、Iさんは動じることなく、
「あなたが情を持っている犬だということはわかっている。だから、そんなに悩むのよ。プライドの高さ、雑種であること、保健所で引き取られたことも大きく関係しているけど…。でも、私は、あなたの根底にある優しさが好きなの。あなたが、悪い連中の仲間にはなりきれないのがわかる。なんなら、一度試してみたら?」
と、私の甘えをうまくかわした。
私は黙り込んでネギをバクバク食べ続けたが、私が私であるための尊厳の大事な部分を受け止めてくれる人(犬)と出会えたことに幸せを感じ、普段余り持たない感謝の気持ちを持った。

おっと、私は「与えられるもの」だけで他者と一緒にいるような性格ではない。そこは、勘違いしないでおくれ。
Iさんは、賢い犬だ。だが、私の賢さとは種類が違う。
Iさんも飼われているが、自立したものを感じる。それは、現実における社会的・肉体的限界を知った上での思考と行動から生まれるものであろう。
しかし、彼女もまた現実に対して肯定的な面が多いが、その上に夢を持つロマンチストで、情に脆い。
私も立場や環境の違いを越えて、彼女のそんなところがケンカの原因になるが、好きだった。
だから、出来る限りのことを彼女にして、愛情を示している。
実際できているかは、知らぬ。


おっと、もうすぐ家の人が帰ってくる。
私はこの後、いつもと同じく散歩に行き、エサを食べる。

今日はここでおしまい。読んでくれてありがとう。
これからもこのブログをよろしくm(_ _)m
posted by Nanja-Kanja at 22:57| Comment(0) | TrackBack(0) | 歌詞・詩・小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年05月12日

短編「少年と弁当」

「売れないな」
男は公園のベンチに腰掛け呟いた。
大手自動車会社に入社して10年、慢性的な不況の中自動車産業は全体的に回復していったが、男は人間がコントロールできない大きな手の平で転がされており、その不安定な上に存在が成り立っているのを認識した10年でもあった。

営業に疲れ、昼食を取っていないことに気づき、コンビニで弁当を買って公園のベンチに座った。

食べる気が起きず、ぼ〜っと風で揺れる木を見ていた。
こんな時、決まって少年時代に戻る。

大学3年生の時父親が倒れ家族を支えなければならなくなり、臨床心理士になるための大学院進学を諦めて就職した。

仕事と家族、重荷ではあるが、重荷を背負うことで男は生きていられる側面があった。

だが、少年に戻るとふと思うことがある。
「あの時の未来がここ…」

男はその言葉を発すると我に返り、
「こんなところで休んでいる場合じゃないんだけどな」
と思いながらも、ベンチに横になった。

しばらく目を閉じていると、初夏の香りを運ぶ風の音に混ざって声が聞こえた。

「ねぇ、お腹減ってるんだ。その弁当ちょうだいよ」

男は目を開け、起き上がった。制服を着た中学生と思われる少年が立っていた。
幼さと成熟したものを感じさせる、不思議な瞳をした少年だった。

午後1時。

「学校はどうしたんだ?」
「もう、終わった」
明らかに少年はさぼっているが、それには触れず、
「そうか、随分早いんだな。まだ昼をくっていないのか?」と聞いた。
「まだだよ。だから欲しいっていったんじゃない」
「知らない奴に飯をねだるなよ」
「じゃっ、それ、いらない」

少年が弁当を指さしながら言うと、手に沢山の傷があることに気づいた。

少年は男の視線を感じて、スッと手を引いて逃げようとした。

「弁当、食うか?」
男は少年に弁当を差し出した。
少年は黙ったまま男の横に座り、弁当を受け取った。
手にしてから、動かない。

男は色々尋ねたかったが、少年が弁当を食べ始めるまで視線を少年の方には向けず、黙っていた。

少年も正面を向いて固まっていたが、男の顔をチラリと見てから、弁当のラップを取り始めた。

ご飯を、一口。

男は、少年に話しかけ始めた。
「何か話したいことがあったんだろ?」
少年は、何も答えず、黙々と弁当を食べている。

男も黙り込んだ。公園で遊ぶ子どもの声、自動車が通り過ぎる音、日常…その存在が、遠く感じた。

弁当を口に運ぶ手を止め、少年が話し始める。
「僕、おかしいと思えることをしてたんだ。みんな僕をおかしいって言うから。おかしいと思えることをして、おかしいと思わなかった人に話そうと思ってた。アンタに会うまで、数人に声をかけた。そのペットボトルのお茶をちょうだいとか言って…あんたに傷を見られたのは、失敗だったなぁ」

本当は、腕の傷に気付いて欲しい心があると察しながらも、
「君は、たぶんおかしくなんかないよ。普通の人間だと思う。弁当を貰おうとすることだって、落ち着いて考えれば本当におかしいことなのかわからないし・・・」
と、男は言った。

「人間…」
少年は、呟く。
そして、話し始める。
「人間…あんたは、不思議なことを言う人だね。そう思ってくれる人に話そうと思っていたんだけど・・・僕をおかしいと言う奴らに対してモヤモヤした気持ちを抱えながらも、自分で自分をおかしい奴だと思っちゃうんだ。何かしでかす時にも、頭は冷静な時が多いんだけどね」
少年は動脈の上についた傷を静かになでながら言った。
そして、
「何も無い」
と呟いた。
「何も無い?」
「信じられるものが、何も無い。全ては、『これが正しい』という思い込みで正しくなるし、信じられる。ずっと、そんな気分を抱えながら生きてきたんだ。みんなが必死になれるのがいつも不思議だった。テスト、勉強、運動会での応援、競争…これから、その違和感、疑いが増していくのがわかる。僕はね、予知能力があるんだ」

「………君の言うことは、間違っていないよ。とても鋭くて賢い。
俺も時々思うよ。『生きているのか死んでいるのか分からない』『動いているのか動かされているのか分からない』って…。それは、本当のことだと思う。それに気付かないふりをするか、それを分かりながらできる限りのことをするか、どこか遠い場所に行くことに救いを求めるか…解決は、それしか浮かばない。
ただ、君はまともな人間だということだ。精一杯生きている。それは、確かだと思う。
もう一つ、本当のことがあるよ」

「何?」

「君が食べた弁当が美味しかったってことだ」

少年は、少し笑った。笑い方を忘れた人間が不器用に笑う時の恥ずかしそうな笑顔だった。

「あっ、俺は仕事の続きをしなきゃならないんだ。また明日、同じ時間にここで会おう」
「…そうだね」
「じゃ、またな」
少年は男の方を見ず、腕の傷を撫でている。


次の日、男は昨日と同じ時刻に公園に行った。
弁当をまた買っていこうかと思ったが、
「必要ないな」
と思い、手ぶらで行くことにした。

ベンチに、少年はいなかった。
だが、白いビニール袋が置かれていた。
中を覗くと、昨日少年にあげたのと同じ弁当と、手紙が入っていた。
男はベンチに腰を下ろし、手紙を読み始めた。

「不思議な、でも普通のお兄さんへ
昨日は、どうもありがとう。『どこか遠い場所』に行くことにしました。遠い場所と行っても、凄く遠い場所ではありません。またここに来ることもできる、『少し遠い場所』です。
弁当が、とても美味しかったことを信じられるからです。
また、いつか会いましょう。
おかしくない人間より」

男はその手紙を横に置くと、弁当を袋から取り出し、食べ始めた。

男もまた、静かで深く温かい「人間である」という感覚を持った。
それに落ち着けるほど人間は綺麗で単純な存在ではないが、それを信じたい祈りに近い思いを持った。

弁当は、美味しかった。
posted by Nanja-Kanja at 16:20| Comment(1) | TrackBack(0) | 歌詞・詩・小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする